インバスケット演習に対する受講者の怒り
なぜインバスケット演習は設定がヘンなのか?
- 新しくある会社に管理職含みで転職してきたら前任者が突然、退職していた。
- ある会社の経理部門で仕事してたら新規事業開発チームリーダーに選ばれた。
- 創業社長に呼ばれたら「あんたが子会社の社長」と任命された。
このようにインバスケット演習は、その役割設定のところから現実的ではありません。
- ある会社の管理職、前任者は海外出張の予定だったから代理として1週間行ってきて。
- 新規事業開発のネタ探しも兼ねて明日からアメリカの見本市に出張してきて。
- 子会社のグランドデザインを描くためにもオレの海外出張にお供しろ。
このようにインバスケット演習は、その「最初の任務」のところから現実的ではありません。
- 海外出張を控え、前任者宛てのメールの処理
- 新規事業開発チームのイントロ期間に届いているメールや資料の読み込みと今後の方針策定
- 以前の職場に届いていたけど残してあったメールの処理と創業社長から転送されてきている関係するメールの分析
このようにインバスケット演習は、演習としての期待値の提示のところから現実的ではありません。
- メールは18件、1時間30分で処理
- メールは22件、今後の方針策定に1時間30分、必要があると思うメールの処理5件
- メールは18件、グランドデザインの策定2時間、メール処理2時間
このようにインバスケット演習は、その時間制約が現実的ではありません。
なぜインバスケット演習は登場人物がヘンなのか?
- もう私、この仕事を続ける自信がありません。これまで頑張ってきましたが辞めたいと思います。どうすればよろしいですか。ちなみに入社して3日です。
- お客さまのご注文を忘れており、催促を受けていたのですがその件も忘れていて、慌ててお届けしたのですが、異なった商品をお届けしたので怒りをかってしまい、その帰り道に交通事故を起こしてしまいました。警察に届けたほうがいいですか?
- 今期の目標の達成率は68%、残り期間は約1ヶ月、メンバー全員のモチベーションは最悪です。また、重要なクライアントが取引停止を連絡してきました。原因は不明ですが、そのクライアントの担当はサブリーダーの私です。リーダーに対応をお願いできますか?
このようにインバスケット演習では、登場人物は多くがグダグダであり、中には「これまでよく平気だったね、この職場で」といいたくなる大人物も当たり前の顔をして登場します。
なぜインバスケット演習はトラブルに見舞われるのか?
- 近隣住民からのクレーム
- 職場におやつを持ち込むことの是非判断
- 退職相談
- 本社の方針変更
- 部下の反抗的な態度
- 業績低迷報告
- 順調に進んでいたイベントの前提条件変更
- 突然の会議招集
- 取引先が予兆なく倒産
- AさんとBさんが職場で大立ち回り
- ネットニュースでの自社の悪い評判
- 副社長と本部長の対立の激化とその煽り
- 急な納期変更と関連予算の縮小
- ベンダーからの「それ無理です」の連絡
- Cさんのコンプライアンス違反
- ⅮさんとEさんの社内ウェディングが突然中止
- 社内食堂の提供時間の変更の連絡
- 「なぜこんなところに盗聴器?」
- 財閥グループ子会社からの新規取引要請
- 開発部門からの人的リソースの引き受け提案
このようにインバスケット演習では、前任者が倒れたり、いきなり辞めたりするのも無理ないなと思わせるほどトラブルに見舞われています。
ヘンな登場人物に怒ってはいけない
このような構造のインバスケット演習に対し、普通の感覚をお持ちの方は「こんなのありえない」であり、特に初見の受講者の方は最初に大きく戸惑い、次に頬が紅潮といったケースも散見されます。このようになってしまうと、お持ちの力も十分に発揮できずに想定外の評価結果となり、インバスケット演習に対する不満が爆発したり、マグマ化したり…。
立ち返って考えると、インバスケット演習は受講者の方の「考える力」を中心に評価するために実施するものです。
- 込み入った状況を正確に迅速に理解することができるか
- 複数の問題を区分することができるか
- 問題の原因を分析することができるか
- 解決策を立案(創造)することができるか
- 立案(創造)した解決策を具体化することができるか
- 具体化した解決策のリソース配分を考えることができるか
- リスクを想定することができるか
- 決断を回避せず、実践行動を回避しないか
これを踏まえると、まず登場人物がヘンでないと皆さんに問うことができません。
登場人物の言っていることがシャープであれば「状況は込み入らない」「問題の切り分けができている」となります。
登場人物の言っていることが意義ある提案であれば「原因の分析や解決策の立案ができている」となります。
登場人物の言っていることが効果的で効率的であれば「解決策の具体化やリソース配分ができている」となります。
つまり受講者の皆さんの解答は「それでいいよ」となってしまい、皆さんのこれら考える力の実力を問うことができないことになります。
登場人物が「どうしましょう?」と聞いてくるからアイデアを出すことができる
登場人物が「どちらにしますか?」と聞いてくるから決断することができる
どうしましょうと聞かれて「自分で考えろ」、どちらにしますかと聞かれて「自分で決めろ」、現実のビジネスの世界では当たり前ですが、インバスケット演習の世界では「アイデアがないのね」「決断できないのね」といった評価につながる不条理に巻き込まれることになります。
ヘンな設定に、見舞われるトラブルに怒ってはいけない
このようにヘンな登場人物ばかりなことの背景には、インバスケット演習は読み物ではなく、受講者の皆さんに考える力を発揮していただき、そして評価をするために「考えることが全く不得手な登場人物を必要としている」が存在しています。
では、ヘンな設定や見舞われるトラブルの背景は?
このヘンな設定は少しでも受講者の方に当事者としての意識をもってインバスケット演習に臨んでいただきたいからです。あまりにもヘンな登場人物ばかりなので「こんなのありえないー」と投げ出していただきたくないからです。そして理解の迅速性、決断の果断性についても評価の対象としているケースが多く、時間制約がシビアになるように設定しています。
見舞われるトラブルについて、つまり「なんでこんな多くのトラブルに対応させるのか」については、「まぐれ当たりでないことの証明を担保すること」にあります。
例えば対応するトラブルが2案件だった場合、2つともOKだったとしても、ともに顕在するトラブルであったとしたら、「潜在するトラブルへの対応はどうかな」といった疑問となり、適正な評価とはいかなくなります。
例えば対応するトラブルが3案件だった場合、3つともダメだったとしても、全てトラブルシューティング系であったとしたら、「中期的な問題発見は得意かも」といった期待にもつながり、適正な評価とはいかなくなります。
つまり、正確な情報理解、問題の認識、問題の区分、原因の分析、解決策の立案(創造)、解決策の具体化、リソース配分、リスクの想定、決断など、これらが「まぐれ当たりでなく継続的に発揮できるか」「継続的に発揮できたある力のレベルは」を分析し、把握し、評価するためには、それなりの案件数を用意しなければならないからです。
まとめとして
ここまでインバスケット演習がなぜ現実離れしたものになるのかをご案内してきました。
なのでインバスケット演習に怒ってしまう受講者の方、感覚としては極めてノーマルであり、おそらく今の会社、今の職場の居心地がとても良いものと考えてください。ただし、怒りのあまり、方向性が違う解答に走ってはいけません。インバスケット演習は所詮、ファンタジーの世界、受講者の方の考える力を評価するために特殊設計されたシロモノと割り切ることがポイントです。
反対にインバスケット演習に怒りを生じない受講者の方、感覚としては〇〇〇か△△であり、おそらく今の会社、今の職場の…(以下、省略)
ただ今、みんなのアセスメント・サブスク版では、皆さんの逞しい解答を絶賛募集中です。