面談演習に対する勘違い

そもそも面談演習とは?

ロールプレイです。

人材アセスメントでは受講者の方のコンピテンシーを評価するためにいくつかの演習を実施しますが、面談演習は受講者の方が上司、アセッサーが部下、これを基本設定として上司・部下の間に存在する何らかの問題、この解決に向けて上司である受講者の方が部下であるアセッサーにアドバイスを行う演習となります。

アセスメント業者によって多少の差があるものの、ライブ形式の人材アセスメントの場合、インバスケット演習に取り組んでいる時間内に一人づつ別室で面談演習を実施するイメージです。

またオンライン形式の人材アセスメント場合、インバスケット演習とは切り離して実施することもあれば、ライブ形式と同じく同時並行的に実施することもあります。また、その多くは10分間でケーススタディを読み込み、10分間でロールプレイを行います。

面談演習で評価されるコンピテンシー

面談演習は受講者の方が上司、アセッサーが部下、これを基本設定としますので、当然、上司役に取り組んでいる受講者の方のコンピテンシーが評価されることになります。

この当然のことが意外と忘れられることが多いので注意が必要です。

ここで評価されるコンピテンシーは主に「仲間と働く力(対人領域)」と「信頼を得る力(資質領域)」です。「考える力(思考領域)」については結果的に評価されることが多く、大きなプラス特徴や顕著なマイナス特徴があれば考慮されるといったレベルです。

その中でも最も重要なコンピテンシーは部下育成、コーチング、支援などといった「部下の成長を促すことができるか」に関係するものであり、面談演習ではここに関係するコンピテンシーを評価するといっても過言ではありません。

通常、人材アセスメントや昇進昇格アセスメントでは面談演習の他、インバスケット演習やグループ討議、方針立案演習を実施しますが、これらの演習を実施する本質的な目的は「あるコンピテンシーを評価するためにその演習を実施する」にあります。

つまり面談演習を実施する本質的な目的は、受講者の方が上司として部下の成長を促すことができるかを評価するためであり、真っ先に挙げれらる評価コンピテンシーは部下育成、コーチング、支援などになります。

別の角度から考えると、「部下の成長を促すことができるか」に関係する部下育成、コーチング、支援などは面談演習以外の演習では評価ができない(方針立案演習)、あるいは評価に向いていない(グループ討議)、または他のコンピテンシーを評価するが先で部下育成などは後回し(インバスケット演習)といった位置づけになります。

説得力やリーダーシップは評価されない?

もう一度、確認します。

面談演習を実施する本質的な目的は「【部下の成長を促すことができるか】に関係するコンピテンシーを評価するため」にあります。

一方、受講者の方からの数多い質問は「そうは言っても説得力、リーダーシップ、決断力、段取り力、優先順位判断力も評価されるのではないでしょうか?」

質問に逆質問をぶつけてみると「不合格となったときのフィードバックレポートにそれらしきことが書いてありました」「先輩から面談演習のアドバイスを受けたときにそのように聞きました」「これまでの職場の中で上司からは説得を受けてきたし、部下にも説得という名の詰め詰めをしまくってきました」

【説得力・リーダーシップ・決断力】について、その定義は別にして面談演習の中で観察評価したいなと思う受講者の方は確かに存在します。

  • グループ討議の諸行動を観察した結果、説得力は高そうだけど何か引っかかるんだよね…
  • グループ討議での諸行動を見てきたが、リーダーシップと決断力のどちらが強いのかがイマイチ分からない…

けれど、原則的に面談演習で力を入れて観察評価するコンピテンシーはあくまで「【部下の成長を促すことができるか】に関係するもの」であり、説得力・リーダーシップ・決断力などの観察評価は二の次です。

説得力やリーダーシップを重点的に評価するのであれば

仮に面談演習で説得力やリーダーシップを重点的に評価するのであれば、その基本設定を「上司と部下」にする必要性は全くありません。

説得力やリーダーシップを「自身の考えを明確に主張、論理や情熱を武器に異論や反論を抑え込み、その考えを相手に受け入れさせる」と一般的に近いように定義した場合、基本設定を困難にすることが人材アセスメントの演習の原則である以上、受講者の方には不利な役割を担っていただくことが本線となります。

  • 受講者の方が弊社の人間、アセッサーが顧客、テーマ「クレーム対応」
  • 受講者の方が被疑者、アセッサーが取り調べる刑事(落としの山さん)、テーマ「あの晩は自宅に居ました」
  • 受講者の方が下請けの担当者、アセッサーが購買部門の責任者、テーマ「これ以上の値下げは無理です」

いかがでしょう。いくつかは人材アセスメントの演習に相応しくないかもですが、受講者の方の説得力の発揮が難しくなるという基本設定はご理解していただけるのではないでしょうか。

これに沿って考えると面談演習で受講者の方が構造的に有利である上司役を担い、構造的に不利である部下役をアセッサーが担うということは、次に陥る受講者の方はいませんよねを確認するためが本来は本線でした。

  • 受講者の方が有利な上司役、アセッサーが不利な部下役、テーマ「昭和のパワハラ説得」

つまりテーマは「(やってはいけない)昭和のパワハラ説得」であり、そうなるような仕込み(受講者の方が不利になる)が現状の基本設定である「受講者の方が上司、アセッサーが部下」を呼んでいることになります。

説得力やリーダーシップと昭和のパワハラの違い

「しないようにね」の意味で難易度が高い面談演習の基本設定ですが、令和の時代、昭和のパワハラ説得に走る受講者の方、表面的には皆無です。

  • 丁寧で穏やかな対応
  • 部下の意見を聞く
  • 意見の背景を探る
  • 理解を示す
  • 好意的に友好的に接する
  • 妥協点を見つける・条件を検討する

このような解決行動がすっかり板についています。

一方、長年、部下役を演じてきた経験、部下役を演じるアセッサーを見てきた経験からすると、表面的には令和の時代に相応しい多様性の尊重とコーチング的アプローチが満載で、表面的には難易度の高さを皆さん難なく乗り越えていきます。

けれど受講者の皆さん(基本設定である上司)の裏側には「会社の方針だから従ってくれますね」「上司である私のそのまた上司の意向だからちゃんと聞いてね」「既に決まったことだからジタバタ言わないでくださいね」が文脈として存在している面談演習がほとんどです。

この観点では、やはり「しないようにねの基本設定」に安易にのってしまう受講者の方が多くを占めています。

だから安心してください。

面談演習で説得力が発揮できない、リーダーシップの発揮が下手くそと悩んでいる受講者の方、「しないようにね」の基本設定通り、説得力やリーダーシップは発揮しています。もしかして発揮できなかったと悩んでいる受講者の方はアセッサーの強烈な対応や無言の圧力に押し負けて、慌ててしまったことをもって出来ずとされているのかもですが、アセッサーは10分間を持たせるために必ず反論反発、そして最後まで納得しないことをデフォとしています。

一方、「しないようにね」ではなく「してほしいんだよね」の基本設定となる「部下の成長を促すことができるか」に関係するコンピテンシーは発揮できていないことになります。

表面的に令和の時代に相応しい多様性の尊重、コーチング的アプローチを見せつけたはいいけど、中身的には「黙って会社の言う通りにしてください」をアセッサーに見透かされて意地悪く反論、強烈に反発、薄笑いの中で逆質問を喰らい、自身では「失敗した…」と意気消沈、ここでしか観察評価できない「部下の成長を促すことができるか」のコンピテンシーは全く発揮できなかった…。

だから安心してください。多くの受講者の方がこのような勘違いに陥っています。

ではどういった方向性で面談演習に対応すべきか?

その答えは…