インバスケット・グループ討議での失敗
評価対象になり辛い演習ですが
1日で実施する人材アセスメント研修では日程的に導入・実施が難しいものの、2日以上で実施する人材アセスメント研修では導入・実施されるケースが見受けられます。ただ、オンラインの場合は諸々の制約も大きく、導入・実施の必然性は薄まってくるので最近の導入率・実施率は低下しつつあります。
本来、インバスケット・グループ討議は対人面と資質面だけでなく、思考面も一緒に観察・評価しやすい演習なのですが、なぜか評価対象のメインになり辛いといった側面があります。
なぜ? 対人面や資質面がメインのグループ討議と面談演習、思考面がメインのインバスケット演習、比較すると包括的に観察・評価が可能であるがゆえに、軽く見られてしまうのではと思います。同時にある程度の人材アセスメントのスキルを持っていないと、観察・評価が難しいといった面があり、あるアセッサーは評価しやすい演習、あるアセッサーは評価し難い演習と意見が分かれることも背景となっています。
また、インバスケット演習の振り返りを主目的に実施することも多く、必然的に2日目の午後、既に評価が固まった後に実施されるという使命を持っていることも。
なので、受講者の皆さんからすると、このインバスケット・グループ討議が評価対象なのか、評価対象でないのかモヤモヤするかと存じますが、これはインバスケット・グループ討議でウロウロしているアセッサーの緊張感で識別してはいかがでしょうか?
① なんだかもっともらしい顔でメモをとっているけど時間が立つと目が眠たそう…
② グループ討議に介入してきて煽る煽る…
③ 腕組みしてホワイトボードや模造紙(古い)を見ているが目が飛んでる…
④ コース責任を持つアセッサーとグループ担当アセッサーが内緒話している…
⑤ グループのテーブル近くに椅子をおいて座り込んでるけど目が虚ろ…
おわかりでしょうか?
①と③と⑤からすると評価対象ではありませんね。明らかに。
②は評価対象の観点ではなく、そのグループの結論の品質アップを図って振り返りの際の「ベストアンサー」にしようと目論んでいると考えてください。おそらく。
④は評価対象の観点ではなく、評価スコア・レベル・強みや改善点について修正、あるいは再確認を図るための内緒話となります。
こんな発言は致命的
なので2日間コースの午後のインバスケット・グループ討議の際、結局は好き勝手に動いたとしても既に評価は固まっているので受講者の皆さんへの影響はないといえますが、【コース責任を持つアセッサーとグループ担当アセッサーが内緒話している】、そのマイナスのターゲットにならないことだけには注意が必要です。
同じような演習であるグループ討議の場合、最終的な結論の善し悪しにアセッサーの意識は向かいませんが、インバスケット・グループ討議の場合、最終的な結論をグループ毎でプレゼンしたり、振り返りも兼ねて結論についてアセッサーがコメントしたりということもあって、そのレベルの高低には意識が向かうことになります。
なので、最終的な結論のレベルを引き下げてしまう発言、およびその受講者に対する視線はかなり厳しくなります。もともと評価スコアが低かった受講者の方の発言が「ちっ」だったときは「やっぱりね」となり、ある程度の評価スコアであった受講者の方の発言が「ちっ」だったときは「あ、もう少し低いスコアでよかったかも」となり、かなりの評価スコアであった受講者の方の発言が「ちっ」だったときは「コース責任を持つアセッサーとグループ担当アセッサーの内緒話」が始まります。
さて、ではどのような発言が「ちっ」、いわゆる致命的な発言と指されるのでしょうか?
答えは簡単、ここまでの流れ的に最終的な結論のレベルアップに逆機能する発言となります。
例えば「今回、議論すべきは第5案件なので、第5案件だけを考えるべき。なのでリンク先である第9案件の状況は無視すべきじゃないかなー」「この第5案件は状況が不明確なところが多いので、まずは不明確な点を調査すべきじゃないかなー」「そもそもこの第5案件の発信元は他部門の人だから、まずはその他部門での答えを待つべきじゃないかなー」「そもそもこのインバスケットでの自分の立ち位置は新任の支店長だから、何もそこまで考える必要ないんじゃないかなー」「そもそも2時間で20案件を処理しなければならないのに、第5案件でそこまで具体的な指示を送ることは無理なんじゃないかなー」……。
そうなんですよね。インバスケット・グループ討議では1つの案件を議論テーマとしてお渡しし、約30分~50分でベストアンサーをグループで導出してねが命題になる中、その土台であるインバスケット演習の前提条件を覆すような発言、インバスケット演習に取り組む際の受講者の方の言い訳的な疑問に近い発言、ベストアンサーを出さなくてもいいよね発言、この付近は間違いなく「ちっ」になります。
そして周りのきちんとした受講者の方は「なんか外れていないか?」と思いながらも、いわゆる虚実の曖昧さが前提のインバスケット演習、その構造的な部分に対する疑問に近しい発言に対して反論を上手く組み立てることができず、その「そもそもないかなーさん」の発言に引っ張られて調子が悪い結論に向けて邁進していくという悲劇が起こります。
ま、救いとしてアセッサー(ちゃんと起きていれば)はその「そもそもないかなーさん」の存在を見逃すことはないので、連帯責任を負うことはありませんが、「ちっ」の結論を出してしまったという気分の悪さは残ります。
ということで、インバスケット・グループ討議の際、結論の品質低下につながりやすい「そもそもないかなーさん」にならないようご注意いただくとともに、もっと大切なことは1日目のインバスケット演習に取り組む際、「そもそもないかなーさん」にならずに考えること、指示文を書くこととなります。
案件相互のリンク、情報を意図的に隠した中での決断要求、時間制約が厳しい中での膨大な案件処理、権限が不明な中での踏み込んだ対策立案などがインバスケット演習の要求水準であって、そこを「そもそもそこまで考えなくてもいいんじゃないかなー」でアウトプットを出すこと自体、インバスケット演習の意図どころか人材アセスメントの意味すら取り違えていると簡単に評価されてしまう大きなリスクがあると肝に銘じてくださいね。