インバスケット演習の「賢い解答」と「もっと賢い解答」

先行して大発表!

私たちが2023年頃から企業向け人材アセスメントで使用してきたインバスケット演習があります。まるで大御所ミュージシャンの『サブスク解禁』のように、2025年秋からサブスクリプションでの提供が始まるのですが、それに先立ち、その一部をコラムとして先行公開させていただきます。

では一部の案件を

案件3
宛先:マーケティング本部 清水本部長
発信:商品開発本部長 佐藤 健太
日付:1月27日(水) 
件名:夏物新作発表会における遅延のご連絡

お世話になっております。

2月22日(月)に予定しております夏物新作発表会について、深刻な問題が発生しましたことをご報告いたします。

「ヒーローズ・夏コレクション」の一部アイテムにおいて、生産委託工場での品質検査で高い確率での縫製不良が判明したため、生産工程の見直しが急務となりました。

具体的には、トップス5アイテム、ワンピース4アイテムが該当し、これらは販売予定数量の約30%を占める主力商品です。現在、生産委託工場と協議中ですが、生産工程の見直しと発売に向けた最終チェックには最低でも3週間を要する見込みです。他アイテムへの切り替えを検討する時間も考慮すると、新作発表会には間に合わないと判断いたしました。

すでに発表会の招待状は先週発送済みで、業界メディアやインフルエンサー約200名が来場を予定しております。また、SNSでのティザー広告も先週から開始しており、多くのフォロワーが期待を寄せております。特に「ヒーローズ」ブランドのSNS投稿には例年以上の反響があり、夏コレクションへの期待が例年以上に高まっている状況です。

現在検討している選択肢は以下の通りです。
 ① 発表会の日程を3週間後に延期する
 ② 予定通り発表会を行うが問題のアイテムについては「近日発売予定」として詳細発表を見送る
 ③ 問題のアイテムを除外し、残りの70%の商品のみで発表会を実施する

いずれの選択肢にも課題がございます。
①の場合
 会場のキャンセル料が約500万円発生し、関係者のスケジュール調整も困難が予想されます。
②の場合
 目玉商品が発表できないことで、来場者の期待感とブランドへの信頼を損なう恐れがあります。
③の場合
 コレクションとしての一貫性が失われ、ブランドイメージに悪影響を及ぼす可能性があります。

つきましては、マーケティング部としての対応方針を本日中にご連絡いただけますようお願い申し上げます。また、広報対応についても早急にご検討をお願いいたします。本件の詳細につきましては、鈴木GM(レディースライン)が把握しておりますので、必要に応じてご連絡いただければと存じます。

高田GM
発表会の延期が最も影響が少ないのではないか。あなたの考えも伺いたい。
                            清水

よくあると言えばよくある案件で…

ちなみにインバスケット演習の主人公はマーケティング部の責任者であるGM(高田GMは前任者)、皆さんは清水マーケティング本部長のお気楽な発言であったり、全ての事情がわかっているかの佐藤商品開発本部長の詳細連絡であったりを踏まえ、この問題にどのように対応するかが上位命題となっている案件です。

上位命題を見失う受講者の皆さんは極めて少数なので、そこはOKですが、①~③の選択肢の中からどれを選択するのかという下位命題では、皆さん解答の方向性がバラケてきます。

A. 上司である清水マーケティング本部長が①だって言ってるから①に決まってる

B. キャンセル料やスケジュール調整のコスト、メディアやインフルエンサーの期待を踏まえて②かな?

C. ①はキャンセル料500万円が発生、会場や関係者のスケジュール再調整が困難、特にメディアやインフルエンサーの再調整は避けたい、3週間後の会場確保や再招待の実行可能性が不明、SNSキャンペーンの勢いが途切れる可能性があってリスクが大きい。②は主力商品の詳細発表がないため期待感を下回ってネガティブなSNS反応を招く、「近日発売予定」の曖昧さが信頼低下やブランドイメージの毀損につながる可能性、メディアやインフルエンサーから「準備不足」との批判を受ける恐れがある。総合的に判断、かつ消去法で③と考えます。

D. 詳細が不明確なので「鈴木GM(レディースライン)」に確認してから判断を下す

さて、Aさん~Ⅾさんまでの解答が揃いました

個人的に年齢的に立場的にであればAさんの解答が大好きな私(素直な人が大好きだから)ですが、アセッサーとして評価するのであれば、Cさんが断然トップ、次いでBさん、Aさん、Ⅾさんとなります。この付近は皆さんも同じですよね?

余談ですが、Ⅾさんの解答、巷では「判断力が高く評価される」なんて怪談話が蔓延していますが注意してくださいね。

案件本文の最下部にある「本件の詳細につきましては、鈴木GM(レディースライン)が把握しておりますので、必要に応じてご連絡いただければと存じます」

インバスケット演習は思考コンピテンシーのプレゼンの場だという本質を忘れ、日常の業務を持ち込んでしまいつつ、かつ、この太字部分、ここに反応してしまって「鈴木GM(レディースライン)」に確認をするといった解答に流れる受講者の方、想定以上にお見かけいたします。

CさんとⅮさんを比較すれば明らかなように、Ⅾさんの解答はゼロ評価となりますので…。なおかつ「本件の詳細につきましては、鈴木GM(レディースライン)が把握しておりますので、必要に応じてご連絡いただければと存じます」、これはインバスケット演習を作成する側のトラップ、いわゆる調査・確認で思考を止める受講者の方をサーチするためなので、くれぐれもご注意ください。

「もっと賢い解答」は?

E. こんな重要な問題の方向性をGMの私が決定する訳にはいかない!

F. マーケティング部としての対応方針を本日中にご連絡しろって言われても新任なので…

G. 重要性は高そうだけど緊急性はそうでもないので今回は未処理とする

個人的に年齢的であれば、Eさん~Gさんのこと大好きですが、アセッサーとしての立場的に、このような解答を許すことはできません!

今後、インバスケット演習は思考コンピテンシーのプレゼンの場だという本質を踏まえ、Cさんのような「賢く映る解答」を、あざとく大袈裟にそれらしく作成することを推奨いたします。

あれ? Cさんの解答が「もっと賢い解答」ではないの??

はい、Cさんの解答は間違いなく「賢い解答」ですが、企業さんで実施する昇進昇格アセスメントの場合、この付近の解答はボリュームゾーン、つまり差別化が効いていない解答に留まってしまいます。

差別化が効いた「もっと賢い解答」とは?

繰り返しますが、Cさんの解答「①はキャンセル料500万円が発生、会場や関係者のスケジュール再調整が困難、特にメディアやインフルエンサーの再調整は避けたい、3週間後の会場確保や再招待の実行可能性が不明、SNSキャンペーンの勢いが途切れる可能性があってリスクが大きい。②は主力商品の詳細発表がないため期待感を下回ってネガティブなSNS反応を招く、近日発売予定の曖昧さが信頼低下やブランドイメージの毀損につながる可能性、メディアやインフルエンサーから準備不足との批判を受ける恐れがある。総合的に判断、かつ消去法で③と考えます」、これは「賢い解答」であって多くの受講者の皆さんはこの付近を提示してきます。

なので「もっと賢い解答」は、この付近から上位に焦点を当てたものであると、ご認識していただけますと幸いです。

・・・よくわからない? 今回、上位命題と下位命題といったキーワードがヒントになります。Cさんの解答はどちらの命題に対してですか? 「もっと賢い解答」はどちらの命題に対してだと思われますか?

上位命題を見失う受講者の皆さんは極めて少数ですが、①~③の選択肢の中からどれを選択するのかという下位命題を上位命題の解とする受講者の皆さんは極めて多数派です。