インバスケット演習で業者が「正解」を提示しない理由
質問する受講者の方も「正解」がないことは百も承知
業界内で伝え聞いた話なので詳細は「?」なのですが、元気と勇気が溢れる受講者の方が講師とディベートをされたようです。
「この案件について、優先順位とか曖昧な話ではなく、どのような指示文、つまりどう解答すべきだったのか教えてください」
「いや、だからインバスケット演習の案件に絶対的な唯一の正解がないことは理解していますが、このレクチャー時間で【問題解決の一般的なプロセス】【PDCAサイクル】【緊急-重要マトリックス】なんか聞いても意味がないと思います」
「そんなことはそれを扱う研修、それをテーマにした書籍で対応可能です。今回、私たちはインバスケット演習を活用した研修を受講しており、お題目としては【問題解決力や業務遂行力の自身の現状把握】だったはず、なので現状把握に必要な何らかの基準、つまりインバスケット演習のこの案件の良しとされる解答を示してもらわないと、自身の解答の良い悪いや改善ポイントが見えてこないと考えます」
ど正論とはこのこと
あまりにも的を射た意見、あまりにも急所を撃つ意見であったため、テンパる講師、拍手喝采の受講者の皆さん、一気に元気と勇気が溢れる受講者の方が有利の状況、続けてダメ押しのアプローチ…
「ちなみに今、インバスケット・グループ討議の題材となった案件№◎◎ですが、緊急性は低いけれど重要性は高いと解説をいただきました」
「繰り返しで恐縮ですが、そんなことはどうでもよくて、案件№◎◎のその内容についてガイドラインとなる良い解答を具体的に教えてください」
その後、どうなったんでしょうかねー。再起不能になっていなければいいんですけど…。
ふんわりした解説に逃げる理由
ここにご紹介した元気と勇気が溢れる受講者の方と講師のディベートですが、これが昇進昇格アセスメントの場面であれば次の一手で逃げることができたのに。
「また明日以降、同じケースで昇進昇格アセスメントを実施するので内容横漏れを防止するためお答えできません」
これで一件落着です。その講師(リードアセッサー)が良い解答を用意している可能性はかなり低いけれど、そう言われてしまっては、元気と勇気が溢れる受講者の方も引き下がるしかないですよね。一件落着。
ただ、今回の事件、マネジメント研修の位置づけの中で起きていたようなので、魔法の言葉で逃げることができなかったようです。
「解答が漏れてしまうと次回の受講者が有利になるので」「最終評価に影響するので」「ビジネスの中の意思決定に正解はないので」
「ビジネスの中の意思決定に正解はないので」といった魔法の言葉
そんなことは受講者の方どころか、世間様も当然よくご存じで、これを魔法の言葉として口にしてしまったのでしょうかテンパる講師。
仮に私が、元気と勇気が溢れる受講者の方であれば以下を続けるかもしれません。
「いやいやいや、そんなことは百も承知、日常業務の中で100点の意思決定がないことなんか実感してるので大丈夫です」
「いやいやいやいや、こっちの言い分としては【インバスケット演習のこの案件で良しとされる解答を示してください】であって、蜃気楼のような正解なんぞ端から期待してませんってば」
「いやいやいや、だーかーらー、そこは理解してますって。示してほしいのは【講師の方が考える良しとされる解答】です。それを基準にして自分たちの解答の自己評価をしたいって話です」
「いやいやいやいや、正解レベルでなくてもOKなので。話を前に進めるためにも講師である◎◎さんの作成した解答を出してください。そうでないとこの場が収束しないのは明らかですよね」
「あれ?? 正解がないのはビジネスの中の意思決定じゃなくて、◎◎さんの〇〇〇〇〇〇かも?」
インバスケット演習で業者が「正解」を提示しない理由
この魔法の言葉に映る「ビジネスの中の意思決定に正解はないので」は魔法の言葉でもなんでもなくて、戯言に近いものと考えています。
単独で存在すれば極めて価値のある言葉ですが、「ビジネスの中の意思決定に正解はないので、インバスケット演習の案件に正解はありません」といった構造にしてしまうと価値がないと…。価値がないどころか、元気と勇気が溢れる受講者の方に徹底的にディスカッションを挑まれる不幸に直面します。
テンパってしまった講師はどうすればよかったのか?
また、インバスケット演習で業者が「正解」を提示しない理由、他に何があるのか?
そもそも今回のコラムをここまで読み進めてきた受講者の皆さんにとって今回のコラムの意義は?
繰り返しますが「インバスケット演習の案件に正解はありません」。ただし「ビジネスの中の意思決定に正解はないから」が背景では当然、ありません。
人材アセスメント業者である私たちは「インバスケット演習の案件の正解を必要としていない」が理由になります。つまり、受講者の方のインバスケット演習のアウトプットを評価するときに、模範解答のような雛形のようなガイドラインのようなものは必要としない。これが真相です。
ただし、誰かが作成したインバスケット演習を使って人材アセスメントを実施する場合、最近人材アセスメントを始めたばかりのアセッサーは、模範解答のような雛形のようなガイドラインのようなもの(形だけの)は必要とするようです
これがあってかなくてか、また、インバスケット演習を研修としてやらされた受講者の皆さんとしては「試験」の匂いがすることもあって正解を求めるのでは?
受講者の方にこれを言っても…
いわゆる身も蓋もないですよね。
人材アセスメント業者である私たちは「インバスケット演習の案件の正解を必要としていない」
続く台詞は「受講者の皆さんの案件処理の内容を一つひとつ確認し、その特徴を押さえ、特徴をコンピテンシーに紐付けてレベルを把握、そして全体を通して同じ傾向があればそのまま、案件毎に異なる傾向やレベルがあれば立ち止まって分析、当該のコンピテンシーではなく他のコンピテンシーの影響ではとの仮説の下、より説明力が高い文脈を導いて思考のコンピテンシーの評価を実施しています」
「なので、ある一つの正解(ガイドラインや模範解答のようなもの)との整合で評価は行っていないし、ましてチェックリストによる採点方式なんぞで評価はしていない」
この台詞であれば人材アセスメントや昇進昇格アセスメントの受講者の皆さんは取りあえず理解していただけます。
ただ、ここまで評価のプロセスを開示することはどうかなーと思います。受講者の皆さんもそこが本当に知りたいわけではないし。
また、元気と勇気が溢れる受講者の方が受講されたものはマネジメント研修で、いわれても「いやいやいやいや、だからそれはそれとして講師の◎◎さんなりの拙い解答でもいいから出してください」に落ち着くかなと…。
逃げ癖がついているのでは?
マネジメント系の研修であっても昇進昇格アセスメントであっても、インバスケット演習の解説場面、業界的に逃げ癖がついていることが現状です。
その背景についてはここまで読んでいただければ推測可能でしょうが、一端を担う者として、マネジメント系の研修であっても昇進昇格アセスメントであっても、これを示すだけで全てが片付くと考えています。
CMですが、私たちはマネジメント系の研修であっても昇進昇格アセスメントであっても、インバスケット演習の解説場面で「これが正解です」といった殺し文句で金の解答レベルのものを、受講者の皆さんに提示しております。
「はーい、これが正解でーす」「スライド読み上げると大変なので皆さん、目で追っかけてくださいねー」「どーですか、なかなか良い解答でしょう?」「この部分が決断、この部分が分析、この部分が創造、この部分が計画、この付近は理解が高い評価になりますよねー」「えーと誰かに聞きましょうか、あ、そこに座っている元気と勇気が溢れる受講者の方、どうですか、なかなか立派な解答でしょう?」「あ、なかなかどころか素晴らしい解答と思います」「ご自身の解答と比べていかがですか?」「あ、はい、私の解答は決断はできていますが、分析が甘く、創造、つまり解決策がなってないと感じました」
いかがでしょうか。インバスケット演習の各案件、私たちは評価がメインなので正解なんぞは用意する必要性まったくなしですが、諸々の事情を踏まえれば受講者の方が「あー」と思うレベルの解答を用意する必要はあると思っています。
また、この場面を昇進昇格アセスメントの中に織り込んでおくことによって、最終場面で実施する個人別フィードバック、その際の受講者の方の自己評価、このインフレを抑制するというメリットも。
さらに研修でインバスケット演習を使うのであれば、受講者の方が「あー」と思うレベルの解答を用意することは紳士淑女の嗜みと断言しますね。
ということで、時節柄と季節柄、短めのコラムとなりましたが、業界の裏話を含めて受講者の皆さんに情報提供を進めてきました。
では、本日のタメになるポイントは?
・あ、そうやってインバスケット演習の各案件は評価されているのね
・良い解答ではなく、決断が高くなるよう、分析が高くなるよう、分けて解答するようにしましょう
・昇進昇格アセスメントの解説の際、イヤなタイプのアセッサーであればイジメてあげましょう
・元気と勇気が溢れる受講者の方のマネをして、受容性や感受性が低く評価されるように頑張りましょう
・みんなのアセスメント・サブスク版の合格セミナーで正解を求めることはヤメておきましょう
それでは引き続きよろしくお願い申し上げます。