インバスケット演習で聞かれたことだけに答えても…

よくこんなご相談をいただきます。

「解答はしっかり書いたつもりなのに、なぜか評価が伸びない」
「案件の数もこなせたし、指示や依頼も書ききった。でも結果はイマイチだった」

こういったご相談の解答を実際に拝見すると、ある共通点が見えてくることがあります。それは「聞かれたことにだけ、きちんと答えている」という状態です。
「聞かれたことに答えているのに、何が問題なの?」と思われた方、まさにそこが今回のテーマです。

「返事をする」と「管理職として応答する」は別の話

インバスケット演習では、上司・同僚・部下・取引先などからさまざまなメールが届きます。その中には、「どう思うか」「どれがいいか」「どちらを選ぶか」といった、意向や判断を求めるタイプの案件が必ず含まれています。
こうした案件に対して「③がよいと思います」と答えることは、確かに「返事」としては成立しています。聞かれたことに答えているわけですから、間違いではありません。
ただ、アセッサーが評価しているのは「返事ができたかどうか」ではありません。「管理職としての思考が見えるかどうか」です。
この視点で解答を見ると、「聞かれたことにだけ答えている解答」がいかに薄く映るか、おわかりいただけると思います。
では具体的に見ていきましょう。

実際にインバスケット演習を使って考えてみましょう。以下は、弊社で実際に使用しているインバスケット演習の中の案件の一つです。

案件1
宛先:マーケティング本部 清水本部長
発信:商品開発本部長 佐藤 健太
日付:1月27日(水)
件名:夏物新作発表会における遅延のご連絡
お世話になっております。2月22日(月)に予定しております夏物新作発表会について、深刻な問題が発生しましたことをご報告いたします。
「ヒーローズ・夏コレクション」の一部アイテムにおいて、生産委託工場での品質検査で高い確率での縫製不良が判明したため、生産工程の見直しが急務となりました。
具体的には、トップス5アイテム、ワンピース4アイテムが該当し、これらは販売予定数量の約30%を占める主力商品です。現在、生産委託工場と協議中ですが、生産工程の見直しと発売に向けた最終チェックには最低でも4週間を要する見込みです。他アイテムへの切り替えを検討する時間も考慮すると、新作発表会には間に合わないと判断いたしました。
すでに発表会の招待状は先週発送済みで、業界メディアやインフルエンサー約200名が来場を予定しております。またSNSでのティザー広告も先週から開始しており、多くのフォロワーが期待を寄せております。特に「ヒーローズ」ブランドのSNS投稿には例年以上の反響があり、夏コレクションへの期待が例年以上に高まっている状況です。
現在検討している選択肢は以下の通りです。
1 発表会の日程を3週間後に延期する
2 予定通り発表会を行うが問題のアイテムについては「近日発売予定」として詳細発表を見送る
3 問題のアイテムを除外し、残りの70%の商品のみで発表会を実施する

つきましては、マーケティング本部としての対応方針を本日中にご連絡いただけますようお願い申し上げます。また、広報対応についても早急にご検討をお願いいたします。本件の詳細につきましては、鈴木GM(レディースライン)が把握しておりますので、必要に応じてご連絡いただければと存じます。

高田GM
発表会の延期が最も影響が少ないのではないか。あなたの考えも伺いたい。

                               清水

あなたは高田GMです。上司である清水本部長から、この案件が転送されてきました。清水本部長はすでに「①の延期がよいのではないか」という方向性を示した上で、あなたの意見を求めています。さて、どう返しますか?

竹の解答

清水本部長、承知しました。おっしゃる通り、①の延期がよいと思います。よろしくお願いいたします。

聞かれたことには答えています。上司の意見に同意もしています。一見すると問題ないように見えるかもしれません。しかし人材アセスメントの評価会議でこの解答が出てきたとき、「返事はしているね」という言葉のあとに、しばらく沈黙が続くことになります。
この解答で見えているのは「上司の意見に乗った」という事実だけです。「なぜ①なのか」「②や③はどう考えたのか」「①を選んだことで何かリスクはないのか」、そういった思考の跡がまったく残っていません。
上司がすでに方向性を示している案件というのは、インバスケット演習の中でも受講者の実力差が出やすい案件の一つです。なぜなら「上司に従っておけばいい」という誘惑が生まれやすく、そこで思考を止めてしまう受講者の方が少なくないからです。しかし管理職に求められるのは、上司の意見に乗ることではなく、自分の頭で考えた上で意見を持ち、それを伝えることです。たとえ結論が上司と同じであってもです。

鉄の解答

清水本部長、ご連絡ありがとうございます。私も①の延期がよいと考えます。招待状の発送やSNS告知がすでに完了している状況ではありますが、品質に問題のある商品を発表会に出すことはブランドへのリスクが大きく、延期して万全の状態で臨む方が長期的なブランド価値を守ることにつながると判断します。ご指示のほどよろしくお願いいたします

竹に比べるとよくなりました。「なぜ①か」という理由が書かれており、管理職としての思考の片鱗が見えます。アセッサーも「ちゃんと考えているな」と感じます。
ただ、これで終わると「鉄の解答」どまりになります。
なぜか。「なぜ①を選んだか」しか書いていないからです。この解答は、言ってしまえば「①の肩を持つ弁護士」の解答です。①を正当化する材料は書かれていますが、②や③についてどう考えたか、また①を選んだことで生じるリスクと、そのリスクへの対応については触れられていません。管理職に求められるのは、自分が選んだ選択肢を正当化することではなく、選択肢を俯瞰した上で最善を判断し、その判断の根拠と課題を整理して伝えることです。この差が、鉄と銀を分けるポイントになります。

銀の解答

清水本部長、ご連絡ありがとうございます。私も①の延期がよいと考えます。以下に整理します。
②については、発表会を予定通り開催できる点はメリットですが、例年以上の期待が高まっている状況で主力の30%を「近日発売予定」として見せられない状態は、来場したメディアやインフルエンサーの落胆を招き、かえってブランドイメージを傷つけるリスクがあります。③は品質問題のある商品を除外して発表会を実施するという点でリスクは最も小さいように見えますが、「期待が高まっているコレクションの主力30%が欠けている」という事実をどう説明するかという問題は②と同様に残ります。
①の延期については、招待状発送済み、SNS告知開始済みという状況でのメディア・インフルエンサーへの個別連絡対応、SNS上での説明コストが課題です。ただ、品質問題のある商品をそのまま発表することのブランドリスクと比較すると、延期によるコミュニケーションコストの方がコントロールしやすいと判断します。
①を進める場合、新たな発表会日程の設定と、メディア・インフルエンサーへの丁寧な連絡対応、SNS上での発信内容の設計については、マーケティング部として私のほうで早急に対応します。広報対応についても鈴木GMと連携しながら進めます。ご確認のほどよろしくお願いいたします。

いかがでしょうか。①②③の比較、①を選ぶ根拠、①が抱えるリスク、そしてそのリスクへの具体的な対応まで書かれています。これが銀の解答です。評価会議では「この受講者は全体を見ているね」という言葉が出ます。選択肢を俯瞰、比較した上で判断し、さらに選んだ選択肢のリスクを自分ごととして引き受け、具体的な対応まで示している。上司の意見に単に同意するのではなく、自分の思考を乗せた上で同じ結論に至っている。管理職としての姿勢が伝わってくる解答です。
竹・鉄・銀、いずれも「①を選ぶ」という結論は同じです。しかし、アセッサーが見えている景色はまったく異なります。竹は「上司の意見に乗った人」、鉄は「自分なりの理由を持っている人」、銀は「管理職として考え抜いた人」。この違いが、評価スコアの差となって現れます。
インバスケット演習で「聞かれたことに答える」のは当然のこととして、その先に「管理職としての思考の厚み」を解答に乗せられるかどうか。特に上司がすでに方向性を示している案件では、そこで思考を止めずに自分の頭で整理し直せるかどうかが、伸び悩む受講者の方とスコアが高い受講者の方を分ける、大きなポイントの一つです。

では金の解答とは?

銀の解答に「ある要素」が加わると金の解答になります。人材アセスメントの評価会議で、「この受講者は違うな」という空気が流れる瞬間があります。

その「ある要素」とは何か。それは弊社の合格セミナーおよび個別アドバイスの場でお伝えしています。「自分の解答が竹なのか鉄なのか銀なのか確認してほしい」というご要望も合わせてどうぞ。