インバスケット演習における「案件間の関連性」
そんなに大切か関連性??
インバスケット演習に取り組む際、「案件間の関連性を把握することが大切」という話を耳にしたことがある方は多いと思います。
確かにそうです。複数の案件を個別・バラバラに処理するのではなく、案件同士のつながりを意識しながら全体を俯瞰して処理を進めるアプローチは、思考領域のコンピテンシーの何某が確かであると示す重要な証拠となります。そしてその何某をアセッサーは高く評価することになります。
ただ、ここで少し立ち止まって考えてほしいのが「では、何を基準に関連性があると判断するのか」という点です。「案件間の関連性を把握しましょう」というアドバイスは正しいのですが、「何をもって関連性とするか」をセットで考えていない受講者の方が実は多い印象です。関連性を意識することと、関連性を正しく定義することは別の話です。そしてこの定義を曖昧なままにしておくと、演習対策としてのアドバイスが机上の空論になりかねません。では、何を関連性と呼ぶべきなのか。弊社では大きく3段階で整理しています。
「全部関連してる」では評価されない
3段階の話をする前に、まず触れておきたいのが「関連性の定義を緩くしてしまうとどうなるか」という問題です。インバスケット演習は「ある職場」を舞台にした演習です。登場する案件はすべて、同じ組織・同じ職場・同じ管理職(=あなた)に関係する話として設計されています。ということは…「全部つながってるんじゃないか?」ということになります。
もちろん、広義にはそうです。同じ職場の話なので、何かしらの文脈で全案件が「関連あり」と言えなくもありません。しかしこれでは、関連性を見出したことに何の価値もありません。
アセッサーの評価会議で「この受講者は案件間の関連性をよく把握されていましたね」という評価が出るのは、「だって同じ職場の話ですし全部つながってますよね」という発見に対してではありません。むしろ、それを解答に書いてしまっている受講者の方を見ると、アセッサー陣からは苦笑いが漏れることすらあります。関連性を把握しているのではなく、関連性という言葉の意味を把握していない、と映るからです。
関連性の3段階
① 固有名詞としての関連性 ―「入口としての関連性」
具体的な固有名詞が複数の案件に登場するケースです。同じ顧客企業名・社内プロジェクト名・新製品名・所轄官庁名などが複数の案件に散りばめられているパターンがこれに該当します。
実はこれ、ケース作成者が案件を複雑に見せるときに最も使いやすい手法です。同じ固有名詞を複数の案件に埋め込むだけで、案件同士が絡み合い、受講者に「どう整理するか」を問う構造が自然と生まれます。逆に言えば、インバスケット演習のケースを作る立場からすると、固有名詞を複数案件にまたがらせることは「案件を複雑にする最もシンプルで効果的な方法」の一つです。
受講者の皆さんにまずお伝えしたいのは、この①の関連性をしっかり意識してほしいということです。なぜかといえば、コストパフォーマンスが非常にいいからです。固有名詞は記号として判断できるため、与件を読み込む中で比較的発見しやすく、発見した後の処理もシンプルです。「案件8にも○○商事の名前がある、案件14にも○○商事が出てくる、この2案件は同一顧客に関するものとして連動して読む必要がある」という判断を、短時間で下すことができます。
この①の関連性を押さえることの意義は対応の一貫性と矛盾の回避にあります。同一の顧客・プロジェクト・案件に関する情報が複数の案件に分散している場合、それぞれを個別に処理してしまうと、判断や指示に矛盾が生じたり、片方の案件で得た重要な情報をもう片方に活かせないまま動いてしまうリスクが出てきます。固有名詞によるつながりを発見し、それを踏まえた統合的な対応を解答に落とし込むことが求められます。入口として関連性を掴み、処理の精度を上げる。まずここから意識してみてください。
② 構造としての関連性 ―「出口としての関連性」
固有名詞は異なるものの、案件の「構造」として関連しているケースです。問題事象の近似-「この案件とあの案件は、根本にある問題が同じではないかー、課題の共通項-「どちらも部下の主体性の欠如が背景にある」-、解決策の連動-「この案件での判断が、あの案件の対応根拠にそのまま活用できる」「この案件で打った一手が、あの案件の解決を促進する」-といったものが該当します。
ケース作成者が「このインバスケット演習の中に隠れた課題を織り込もう」と意図したとき、その課題が現れるのがまさにこの②の構造的な関連性の部分です。表層ではなく深層で案件を読む力が問われると言っていいでしょう。
ただし、です。この②の関連性、コストパフォーマンスの面では正直あまり褒められたものではありません。時間制約が厳しいインバスケット演習の中でこの構造的関連性を掘り下げようとすると、出口のない迷路に迷い込むリスクがあります。案件が示唆する課題は往々にして複雑であり、その背景や連鎖を丁寧に追いかけるほど、個々の案件処理に割けるリソースが失われていきます。むやみやたらに踏み込んでしまうと、13案件や23案件を時間内に処理しきれないという本末転倒な結果に陥りかねません。
とはいえ、「この案件の背景にこういう課題が潜んでいる」と気づいた、認識したという事実は、アセッサーに伝える価値があります。その発見は、俯瞰的な思考や深化的な思考、概念的な思考を示すものであり、しっかりと評価の対象になります。自分の手柄として残しておく意識は大切です。ただし、ここで注意が必要です。「こんな課題があります」「こんなことをやっていく必要があります」といったレベルで解答に盛り込むだけでは、今度は「具体性がない」「アイディアがない」と指摘されることにもつながりかねません。課題を認識したなら、その先の具体的な一手まで示せているかどうか。②の関連性を解答に活かしきるには、この点が問われます。
課題を発見したことを示しつつ具体的な対応にも落とし込む。言葉にすると簡単ですが、時間制約の中ではなかなか難しいのがこの②の関連性の扱いです。発見したら、「一言で示して次へ進む」くらいの割り切りが現実的な落としどころかもしれません。
そして、受講者の皆さんにもう一点、重要なことをお伝えします。この②の構造的関連性、実は案件処理の演習が終わった後に「方針立案」や「課題設定」といった別の演習が課される場合に、大きな役割を果たすことになります。案件処理を通じて見えてきた構造的なつながり、職場の深層に潜む課題、それらがそのまま方針立案や課題設定の核心部分になるからです。ここで受講者の皆さんに特に意識してほしいのが、自分が受ける昇進昇格アセスメントのカリキュラムをあらかじめ確認しておくことです。案件処理の後に方針立案や課題設定が実施される場合、②の関連性はそちらの演習でのポイントになります。
つまり案件処理の段階で深く踏み込む必要はなく、「この構造的なつながりは後の演習で活かそう」と頭の片隅に置いておくだけで十分です。案件処理は案件処理に集中し、②の関連性から見えてくる課題は方針立案や課題設定の場面で存分に展開する。この分担を意識することが、インバスケット演習「案件処理」と「方針立案や課題設定」、2つの演習に取り組む上での重要なポイントになります。逆に言えば、カリキュラムに方針立案や課題設定が含まれているにもかかわらず、案件処理の段階で②の関連性を掘り下げることに時間を使いすぎてしまうのは損をすることになります。案件処理の出来が中途半端になり、かつ方針立案・課題設定で使えるはずのネタを先に使い切ってしまう、という状況です。カリキュラムの確認と、演習間の分担の意識、ぜひ頭に入れておいてください。
③ 同じ職場だから全部関連あり-これは関連性ではない
そして3段階目。これは冒頭で述べた通り、関連性の定義として広義には成立するものの、演習上の価値はほぼゼロです。
「すべての案件はこの職場で起きていることなので関連しています」という認識を解答に盛り込んでも、アセッサーの評価には何も貢献しません。むしろ、本当の関連性を見抜けていないことの裏返しとして映ることすらあります。書かないほうがいいとすら言えます。実際に書く方はいらっしゃいませんが…
他にも「この案件の発信者はAさん、この案件の発信者Aさん、なのでこの案件は関連性がある」―この「発信者基準での関連性」もアセッサーはクールに対応します。まして「この案件とこの案件とこの案件についての指示はBさんが適任、なのでBさんにまとめて指示をしよう」―この「差出人基準での関連性」もアセッサーは薄笑いで対応します。この点、巷に出回る都市伝説に惑わされないよう注意してください。
まとめ
「案件間の関連性を意識しましょう」というアドバイスは正しい。ただし「何をもって関連性とするか」をセットで考えなければ、演習対策としての意味をなしません。
①の固有名詞による関連性は「入口」であり、コストパフォーマンスよく発見・活用できる実践的な武器です。まずここを徹底してください。②の構造的関連性は「出口」であり、ケースの深層に潜む課題を読み解く力が問われる一方、踏み込みすぎると時間を失うリスクもある、扱いに慎重さが必要な領域です。そして、カリキュラム上に方針立案や課題設定が含まれている場合には、②の関連性はそちらで存分に活かす、という演習間の役割分担を意識することが重要です。そして③は、繰り返しになりますが、関連性とは呼べません。
この3段階を頭に入れた上で与件を読み込むと、インバスケット演習への取り組み方がかなり変わってくるはずです。ぜひ次から意識してみてください。
